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心理学の知識

認知行動療法|中級編

認知行動療法

・認知療法とは、アメリカの精神医学者:アーロン・ベック Aaron Beck(1921~ )が開発した心理療法(精神療法)です。
・認知療法は特にうつ病やパニック障害、不眠症等に対して効果をあげています。

◇認知療法における「認知」とは

認知療法では、不快な気分や不適切な行動の生じる背景として、「考え方」の影響を重視しています。この「考え方」のことを認知療法では、「認知」と呼んでいます。たとえば仕事が忙しくなり、残業も増えたとします。多くの仕事を任されたことで自分自身の価値が高まったと考えたり、あるいは残業代が増えたと考えて嬉しいと思う場合もあるでしょうが、逆に仕事が多くなったおかげで疲労感がたまり、大好きな趣味も減らさざるを得なくなり、また家族と過ごす時間が減ってしまったと考えて、落ち込む場合もあるでしょう。このように同じ状況でも、その状況をどのように捉えるかによって、だいぶ気分が変わってきます。「認知」には考え方だけではなく、イメージや記憶、といったものも含まれます。

◇認知療法における「認知モデル

このように、「ある状況においてどのような気分になるかは、それをどのように考えるか次第である」という仮説が、認知療法における「認知モデル」というものです。言い換えると、憂うつになったり不安になったりするのは、出来事そのもののせいではなく、その出来事をどう捉えて、どう解釈したかによるのだ、という理論です。このように考えると、憂うつになったり不安になったりしたときには考え方を少し変えてみればいいことが分かります。

◇うつの「認知の3タイプ」

アーロン・ベックはうつ病の患者が陥りやすい考え方のタイプの3つ「自分と世の中と未来に対する否定的な考え方」を見出しました。
「私は駄目な人間だ」
「世の中は不公平だ」
「これから先は何もよいことはない」といった考え方のことです。

そしてこれらの考え方によって自分を責めてしまったり、世間を恨んでしまったり、将来を絶望的に感じるなどして、憂うつ・怒り・不安といった不快な感情が引き起こされると考えられるのです。

BDIテスト:Beck Depression Inventory (ベックうつ病調査表
BDIテストは、認知行動療法を提唱したアメリカの精神科医アーロン・ベックによって考案されたもので、 抑うつの程度を客観的に測る自己評価表です。定期的にBDI テストを行うことによって、自分自身の気分の傾向を数値として測定します。自分自身を客観的に見つめることができ、うつ病判定のひとつとして医療機関などでも利用されています。

◆認知療法における「認知の歪み(ゆがみ)」

このような不快な感情を引き起こす不合理で非機能的な認知のことを、認知療法では「認知のゆがみ」と呼んでいます。

(1)全か無か思考

これは良いか悪いか、好きか嫌いか、白か黒かのどちらかしかない考え方のこと。実際はその間であることが多いものです。
例:仕事が完全にできていないと気になってしまいます。
相手が少しでも不機嫌だと、「自分のことが嫌いなんだ」と思ってしまいます。
テストで70点をとると、0点をとったときと同じ気分になってしまいます。

(2)破局的な見方

いつも最悪の事態を考えてしまい、ちょっとした困難から大きな破局や不幸な結末を想像してしまうことを言います。
例:家族の帰りが少し遅かったりすると、「どこかで事故にでも遭って死んでしまったんじゃないか」と考え、その後の暮らしを想像して悲しい気持ちになってしまいます。

(3)極端な一般化

たった一回の出来事から全てを決めつけてしまうこと。
例:ひとつのプロジェクトが思ったように進まないときに、過去の失敗を思い出して、自分はいつも失敗すると結論を出してしまいます。

(4)選択的な抽出

良い情報を無視して、悪い情報ばかりを取り上げてしまうこと。
例:発表の時、批評されたことばかりが思い出され、良いコメントをされたことは忘れてしまいます。

(5)プラスの側面の否認

ものごとのマイナスの側面のみを取り上げて意味づけ、プラスの側面は否定してしまうこと。
例:人に長所を指摘されても「そんなところができても何にもならない」と考えてしまいます。

(6)根拠のない決めつけ

根拠がないのに思いつきで判断すること。
例:はじめて手がけた仕事がうまく進まないときに、この仕事はうまくいかないだろうとすぐに決めつけてします。

(7)過大評価・過小評価

事実や出来事を実際よりも高く評価したり逆に軽視したりすること。
例:自分の欠点を人生に支障をきたす大問題とらえ、「自分には欠陥がある」と考えてしまいます。

(8)感情的理由づけ

自分の気持ちや感情を理由にして、そこから出来事や事実を意味づけること。
例:「こんなに不安になるのだから、この問題は解決できないに違いない」と考えてしまう。

(9)「すべき」表現

「~」すべきである、「~しなければならない」といった考えのこと。
例:人間関係がうまくいっていなければならない。怠けていてはいけない。主婦なら家事を完璧にするべきだ。

(10)レッテル貼りと誤ったレッテル貼り(ラベリング)

自分に否定的な言葉のレッテルを貼ること。
例:自分は落ちこぼれだ。自分には欠陥がある。

(11)自己関連づけ

何か悪いことが起きると、本当は関係ないのに自分のせいで起こったのだと自分を責めてしまいます。
例:Aさんがサークルをやめたのは、自分のせいかもしれない。
子どもが学校で問題を起こして担任から注意を受けた時に、全て自分の育て方が悪かったんだと自分を責めます。

(12)自分で実現してしまう予言

否定的な予測や思い込みをすることによって、行動が抑制されてしまうため、結果的にその予測が実現したかのように、当初の否定的な予測が確信になってしまうこと。
例:相手と違う意見を言ったら相手を不機嫌にさせてしまうかもしれない」と考え、自分の意見を言わないでいたら、「何を考えているのかよく分からない」と思われ、本当に相手がイライラしてきてしまった。そしてやっぱりいらいらさせてしまった、と考えます。
例:人前で話そうとすると声が震えるのではないかと心配し、失敗することばかりを考えて自意識過剰になり、声が震えてしまって、結局やはりそうだったと考えます。

【認知療法による実際】

認知療法では、まず自分がどのような考え方をしているのかに気づき、その考え方が自分の気分や行動にどのような影響を与えているのかを知り、そしてその結果、どのような現実が生み出されているのかを十分に理解します。そして、思いつきやイメージで判断するのではなく、根拠をもって判断を下す練習をします。その結果、自由で柔軟性のある見方を獲得することができるようになり、自由に幅のある行動がとれるよう援助するものです。認知療法では、考え方が個人の気分や行動に影響を与えることを示していますが、決して楽観的に考えられるようになることを促しているのではありません。認知療法が最終的に目指していることは、最悪の事態も想定した上で、なおかつ効果的に状況に対処できるようになることなのです。

※仙台心理カウンセリング 心理カウンセラー養成講座:中級編テキスト

◆認知療法における「自動思考

認知は比較的意識の表層にある「自動思考」と、自動思考よりもさらに深層にあって自動思考を生じさせる源となる「スキーマ」(枠組み)に分けられます。自動思考というのは、ある状況で自動的に頭の中に浮かんでくる考えやイメージや記憶のことをさします。たとえば子どもが道をよこぎろうとして車にはねられる瞬間を見たとき思わず「危ない!」と叫びます。
このときの「危ない」が、まさに自動思考です。この場合は声に出ましたが、実際には声に出さずただ頭の中に浮かぶだけのことが多いです。この自動思考は、反射的、瞬間的に頭の中に現れて、非常にすばやいスピードで頭の中を駆け抜けるので、通常は深く考えたり内省したりして生じるものではありません。

「思考」とはいっても、自分で「考えている」という意識は全くないものであり、そういわれてみて初めて「そういえばそう考えていた」と気づくような類のものです。自動思考は現実的に考えてうまれてきたものではないので、中には不合理であったり、特に根拠もなくただ思い込んでいるだけのものであったり、非現実的であったりする場合が多いのですが、それにもかかわらず、それを考えている本人はそれを妥当なもの、現実的なものと考えている点が特徴です。
特に自分に対する考え方などは日常的に自分について考えることは多いので、習慣化しており、この考えの固定化したものが、「スキーマ」(枠組み)と呼ばれるものです。

◆認知療法における「スキーマ
スキーマとは、自動思考が習慣化し、固定化されたものであり、いわば個人の価値観ともいえます。
個人の価値判断の基準でもあり、ほとんどの場合修正は困難で、これはその人の行動や人生の歩み方に多大な影響を与えています。たとえば、「人生人間関係が重要だ」と考える人は、他人との交流に力を注ぎ、これがうまくいくことに喜びを感じるでしょう。一方で親しい人との関係がこじれれば、ひどく落ちこんでしまうでしょう。
また、「人生仕事での成功が重要だ」と考える人は、職場で人と歓談するよりもまず仕事に熱を入れ、仕事で成功すれば喜びを感じ失敗すればひどく落ちこむでしょうが、人間関係のもつれなどにはさほど動揺しないかもしれません。
うつ病では否定的なスキーマが優勢に機能しており、「自分は欠陥のある人間だ」などと自分に対する否定的な考えを、固く信じています。自分自身の価値を高めうるいかなる出来事も、この信念のもとに駆逐されてしまいます。肯定的な出来事よりも否定的な出来事の方を多く思い出し、また肯定的な結末よりも否定的な結末の方を予想するようになります。