knowledge
心理学の知識

家族の要因がこどもの人格形成に及ぼす影響

家族の要因

家族の要因がこどもの人格形成に及ぼす影響

家族の要因がこどもの人格形成に及ぼす影響について、焦点を絞ってまとめる。

●人間が成長していく上で、遺伝と環境が及ぼす影響について、一般に発達は、そのいずれかのみに依存するものではなく、両者が相互的に影響する。影響を与えるもののひとつに「家系」がある。家系研究法の代表的なものにゴールトン(1912年)による、カリカック一家の研究がある。

この研究は、カリカック一家の両系統の5世代にわたる検討を行った。また、優秀家系の例では、ウエジウッド家、ダーウィン家、ゴールトン家の研究結果がある。

研究結果によれば、カリカック一家の場合、遺伝的要因が悪かったからでなく、その社会経済的、あるいは文化的環境が劣悪であったため、十分な家庭教育、学校教育が受けられなくてその結果として子どもたちが社会的に不適応となってしまった可能性がある。逆にゴールトン一家の優秀一族の場合には、豊富な教育と訓練を施すことが可能であったので、優秀な学者などが輩出したとも考えられる。

子どもの人格形成に影響を与えるものとして「初期経験」がある。初期経験とは、発達の初期の段階に、ある特定の経験をはく奪されたために発達が遅滞したり、ある能力が獲得できなかったりすると、それを歴年齢が進んだ後に追経験しても、もはや回復は不可能であるとされている。

初期経験は特定の時期(臨界期)以外には、獲得するのが困難であるということを、具体的に証明している例として、米国カリフォルニア州で生まれたジーニーという女の子の例や、ハーロウによるサルの遠隔飼育実験、ローレンツの刻印づけなどがある。

初期経験がうまくいかなかった場合、知能の発達にも強い影響が及び、「同化と調整」スイスの心理学者ピアジェ(1896-1980)の理論が、維持できなくなり社会に適応できない状態に陥る。

以上の研究結果をまとめながら、ひとつの印象深い映画が思い出された。

1988年に発生した「巣鴨(すがも)子供置き去り事件」を題材として、2004年上映された、誰も知らない」(是枝裕和監督作品)は、マスコミでも大きく取り上げられ、記憶に新しい映画である。映画の中で、残酷シーンはほとんどないものの、実際は非常に凄惨さを感じざるを得ない事件であった。
その後の報道によれば、一度も学校に行く機会を与えられなかった長男は、事件発覚当時、中学生であったが、自分の氏名を漢字で書くことができなかったとされている。
漢字を覚えるということについては、今後、獲得可能であるものの、「初期経験」については、ほとんど不可能である。

幼稚園や保育園に通い、友だちと遊ぶ、ケンカする。善悪を判断するちからをつける。小学校での先生や同級生との関わり、春夏秋冬のイベントを体験する。そして何よりも、子ども時代に子どもとしての経験を情緒的に楽しむこと、親(養育者)に甘えること。思春期までに必要だった経験を取り戻すことは「臨界期」を過ぎてしまった中学生にとって、非常に苛酷のように思えた。

今、社会のなかで私たちにできることは一体何だろう。この事件発覚により、児童相談所やその他の行政、公的機関への要求が大きく変化したが、私たちも、社会の中で生きるひとりの人間として、些細な援助や、「自分にできること」を、それぞれが実践できるよう、微力でありながらも、心がけて行きたいものだ。

仙台市 田村みえ 「家族の要因」東北福祉大学 心理学レポート